hitonaka story Prologue『商店街の営みに泊まる』

ローカルパンを継承する誇りと、カフェを通じて吹かせる新しい風

その土地でしか手に入らない、地元民にソウルフードとして愛されるパン「ローカルパン」。
隠岐には複数のローカルパン工場があり、『木村屋パン店』のパンもその一つ。
4代目の西尾文成さんは、父から受け継いだ味を守りながら、町の未来を見つめている。

Keyword 1父から受け継ぐ、愛され続けるローカルパン

 窓辺の棚に並ぶきつね色の食パン。窯からは焼き上がったパンが次々と取り出されていく。木村屋パン店のパンは多種多様で、食パンだけでも湯種、全粒粉、レーズン入り、ホテルブレッドなど数種類。パンの間にスポンジケーキとバタークリームを挟んだ「カステイラ」は、食感の異なる2種の生地とクリームのシンプルな甘味がクセになる。隠岐でしか手に入らないため、まとめ買いして都会に出た家族に送る人もいるそうだ。「おやつあんパン」は、こしあん・白あん・チョコ・いちごジャム・クリームの5種がランダムに入っている。その名の通り老若男女に好まれるおやつの定番だ。

 スーパーなどに卸すパンを主軸にしているため販売コーナーはないが、運が良ければ焼きたてを買うことも。地元の人は焼き上がりのタイミングを知っているらしく、文成さんに親しげに声をかけ買い求める姿が見られる。地域で長く愛され、文成さんも地域を大切にしていると感じられた。
 なぜ『西尾パン』ではないのかと訊いてみると「木村は創業者の苗字。30年ほど前、2代目が工場を畳もうとしたとき、うちの父が『もったいない、俺がやる!』と一念発起。40歳ぐらいからパン職人を目指し始めたんです」。文成さんは高校卒業後に島を出て、20代後半まで関西で働いていた。「父は自分の代でやめるつもりでしたが、その当時色々な仕事をして安定しなかった僕に『フラフラするならうちで働け』と…。僕自身、継ぐ気はあったんですけどね」。そう言って笑う様子は、充実感に満ちているように見えた。

Keyword 2パンがつなぐ町の未来、人の笑顔

 文成さんがUターンし10年以上経った。地域には同じように島外から戻った若手経営者たちがいる。『月あかりカフェ』ではハンバーガーに、『京見屋分店』ではモーニングサンドに『木村屋パン店』のパンが使われ、コラボレーションを展開。地元の人にとってはローカルパンの魅力の再発見に、旅行者には新しい発見になっているだろう。
 文成さんは、隠岐の人・モノの流れの変化を見つめている。「一昔前まであまり入ってこなかった大手メーカーのパンが、最近ではスーパーの売り場にたくさん並んでいます。人口はどんどん減っているし、パン屋もこれから先を考えないといけない」
 木村屋パン店は近くの場所に新工場を建て、販売コーナーとカフェを併設しリニューアルオープンする予定。これまで通りローカルパンを作りつつ、新商品も開発していくそうだ。「Hito_Naka西町ができたらお客さん向けにモーニングを始めるのいいかも。他のお店とのコラボも広げて、西町商店街と周辺エリアでなんでもできるようにしたい。地域の人の集いの場にもなっていければ…」。パンは食事にもおやつにもなり、多様なシーンにそっと寄り添い笑顔を増やす。長年地元の食卓を支え続けてきた『木村屋パン店』なら、旅行者も地元の人も心地よく過ごせる場所が作れるはずだ。今後の夢を訊いてみると「パンと小麦つながりで、地ビールに挑戦したい!」。文成さんは昔ながらのふるさと味を守りながら、しなやかな足取りで未来に向かっている。

木村屋パン店
隠岐の食卓を支えるローカルパン工場の一つ。卸売をメインに、食パンや「カステイラ」「おやつあんパン」「メロンパン」など多彩な商品を展開。素朴なおいしさと、ちょっとレトロなパッケージが魅力です。確実に手に入れたい人は隠岐のスーパーのパン売り場で購入を。
住所 島根県隠岐郡隠岐の島町西町八尾の二72 pin
営業時間 7:30〜18:00
定休日 水曜日PM・日曜日
TEL 08512-2-0072