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西町商店街は30〜40代の店主らの結びつきが強い。
「ふるさとを元気にしたい」その思い一つでつながり、新しい取り組みを始めている。
『石谷食料品店』の石谷店長はそのリーダー的存在。
石谷さんは自身の活動を〝種まき〟だと話す。
西町商店街で食料品や雑貨などを販売する『石谷食料品店』。建物の上は昔ながらの民宿で、ビジネスマンや島に長期滞在する工事関係者らが利用している。
近年は実店舗だけでなく、島内の買い物困難地域をめぐる移動販売も行う。大型スーパーやドラッグストアが上陸する中で生存戦略として始めたものかと思えば、それだけではないそうだ。「地域を盛り上げるために何か新しいことはできないか…西町の仲間たちと話していて、車での移動販売はどうかと。うちの商品だけじゃなく、商店街の各店の洋服や靴、『秀月堂』のお菓子、『木村屋パン店』のパン、『京見屋分店』の雑貨なども乗せていくスタイル。〝ミニ西町商店街〟のような感じですね」
島内では、高齢化や人口減少の影響で商店が地域から消えつつある。西郷港周辺には大型施設があるが、車の運転ができなければ気軽に出掛けられない。そんな地域の人にとって、多彩な品物を積んだ移動販売車は生活を支える存在になる。意外と喜ばれたのが履き物屋さんのアイテムだそうだ。普段使いの靴やサンダルなどの買い替えも、買い物困難地域ではままならない。移動販売車なら商品を見て選べ、試し履きし、サイズが違えば次の巡回で合うものを持ってきてもらえるよう頼める。自分の目で必要なもの、欲しいものを選ぶ。それは何気ないことのようで、心の豊かさと切り離せない大切な営みだ。石谷さんたちはモノだけではなく、〝買い物の喜び〟も運んでいると言えるだろう。
石谷さんは「移動販売はここに人を呼び込む〝種まき〟の意図もあるんです」と言う。「地域の皆さんに、いつか西町商店街で買い物を楽しんでほしい。フェリーに乗るついでにちょっと立ち寄るだけでもいいんです」。例えば、移動販売で『秀月堂』のお菓子を買った人が、『月明かりカフェ』にお茶をしに来る。『京見屋分店』の雑貨を買った人が、店主にギフトの相談をしに店舗を訪れる。そんな動線を作ることが、移動販売のもう一つの目的なのだ。
商店街を目的地とする人が一人増えれば、賑わいを取り戻す一歩になる。訪れる人たちは、移動販売での買い物をきっかけに新しい楽しみを得られる。お気に入りの店がある、行きたい場所がある、会いたい誰かがいることは、島で暮らす日々の活力になっていくだろう。
石谷さんは若い頃島外で暮らしていたが、家業を継ぐために西町商店街へ戻った。「本音を言うともっと本土にいたかった」と笑う。帰った故郷は若者が減りつつあったが、残ることを選んだ同年代の仲間たちとの再会もあった。「このあたりは商売人が多いからでしょうね、町への思いはみんな同じ。酒を飲みながら意見を交わしたり、時には議論が白熱しすぎたり…。本気で考えているから熱くなる。若い人の仕事がある町にしたいし、隠岐を好きになってもらいたいんですよ」
仲間たちの思いは徐々に形になっている。石谷さんの店の駐車場で、西町商店街の店主たちが屋台を出して小さなお祭りを開催。多くの人が訪れ、賑やかな1日になった。隠岐高校の生徒たちとコラボレーションし、商店街の各所にキャンドルを灯すライトアップイベントの企画もあった。それらも全て〝種まき〟だ。
石谷さんはHito_Naka西町のオープンによる人の流れの変化に期待を抱く。イベントの組み立て方にもこれまでと違う視点が加わるだろう。自身の店では、宿泊客向けに酒やつまみ、ゲストハウス内で簡単に調理できる食材の販売なども検討している。宿泊客たちにとっては、石谷さんやご家族の皆さんとの対話も楽しみになるだろう。変わりゆく時代の中で、石谷さんと仲間たちの〝種まき〟は続いていく。